音響用メッシュクロス開発プロジェクト
クリアで、洗練された音を創り出す――
市場が広がり続ける音響メッシュで
顧客の高度なニーズに応える

プロジェクト概要

高性能メッシュを開発・製造しているNBCメッシュテックにおいて、今とくに注力する領域の一つが「音響メッシュ」という素材だ。音響メッシュは、スマートフォンなどの通信機器をはじめ、イヤホン・ヘッドホンといった音響機器など幅広い製品に採用されており、市場が大きく拡大している分野の一つである。同社でも、2021年に音響メッシュに特化した「アコースティック・プロジェクト」(APJ)が発足し、部署を越えた連携を図りながら、積極的な製品開発を進めてきた。とりわけ近年、音響メッシュが製品の外観部分にも採用され始め、顧客の高度なデザインニーズに応えながら案件を開拓している。同プロジェクトに従事する2人が、さまざまな課題をいかに越えて“未踏の品質”を実現しているかを明かした。

携帯電話の防塵用・制動用に開発されたのが始まり

外崎:
音響メッシュの始まりは、いわゆる“ガラパゴス携帯電話”の防塵用、制動用にメッシュを開発したことでした。それまでは不織布が使われていましたが、より高度に塵や砂鉄の侵入を防いだり、音を調整したりする役割を担うためにオープニング(目開き)の均一なメッシュが採用されるようになったんです。結果、あらゆる日本製の携帯電話には、音響メッシュが使わるようになりました。現在では、高音質を実現する制動用途でスピーカーなどに使われていますし、防塵用途でもスマートフォンをはじめとする通信機器、イヤホン・ヘッドホンといった音響機器、車載機器、ゲーム機器などに使われるなど、活用の場が大きく広がっています。
先山:
最近では、製品の小型化などからより高精細なメッシュが求められていることに注目して、通気度や通気抵抗値のバラツキを抑えた製品の開発に成功しました。また、音質を調整するためには多様なメッシュが必要なのですが、当社では扱いの難しい金属繊維をはじめ、合成繊維、液晶ポリマーなど、さまざまな材質で音響メッシュを作れることが確固たる強みとなっています。あわせて、独自の特許取得加工技術であるNafitec®やCufitec®でも、差別化を図っています。
外崎:
案件数は海外を中心に伸びており、約7割が海外顧客です。現地駐在員や現地スタッフとも連携し、時には私自身も出張で現地に赴きながら、お客様企業の声に応えています。
※Nafitec®:素材表面に均一に機能性無機ナノ粒子を固定し、粒子の表面積を最大化することで防塵・防汚・撥水・撥油機能を最大限に高める加工技術
※Cufitec®:一価銅化合物ナノ粒子を応用した抗ウイルス・抗菌技術

音響製品の外観デザインにも採用され始めている

外崎:
音響メッシュは、撥水性の有無やお客様の希望色をふまえた染色加工になるため、多くが顧客ごとの特注品となります。たとえば通気抵抗のばらつきを、通常±20%以内のところを5%以内にしてほしいという依頼や、黒色の中でも顧客指定の黒色にしてほしいなど、かなり細密なリクエストもあります。また、案件化から納品までのスピードも、他の業種と比べ非常に速いです。
先山:
とくに近年は、防塵用途や制動用途が多かった従来に対し、イヤホンやヘッドホンといった音響製品の外観デザインにも音響メッシュが採用され始めていて、より細かな色味にこだわる顧客が増えています。このように、顧客リクエストを拾い上げて開発に展開し、試作、量産対応、製造までをスピーディーに進めるためには、営業・開発・製造の各部門が密接に連携する必要があります。また、細かな色の違いに関しては顧客希望の管理手法を採り入れて対応するケースもあります。こうして、顧客の高度なリクエストに応えることで採用され案件化するケースが少なくなく、その点も当社が強みとしているところです。

試作を10数回繰り返し、微妙な色味をチェック

先山:
最近も、ある海外メーカー様に採用いただいたヘッドホンの開発で、とても綿密なやりとりがありました。先方からは、見た目ではわかりにくい色の明るさや濃淡、バラつきなどに関する細かなリクエストをいただき、当社ではそれを解決するため数か月前から事前に社内調整や、試作を繰り返しました。さらに、お客様も当社工場のある山梨に滞在し、10数回にも及ぶ試作をしながら、色味のチェックをしていただきました。その際には、お客様が指定した色味チェック用のブースも急遽、山梨に持ち込みました。こうして非常に苦労しながらもリクエストになんとかお応えし、無事にOKをいただけた時は、本当に幸せでしたね。そのお客様からは「他の音響メッシュメーカーにも声をかけたけど、さまざまな試作品を一番早く提案してくれたのがNBCメッシュテックだった」と伝えられ、とてもうれしかったことを覚えています。非常に苦労し大変な期間でしたが、がんばってよかったと思った瞬間でした。もちろん、これは一人で成し遂げたわけではなく、APJメンバー全員の力、そして、各工程に係る社内関係者全体の力で勝ち取った評価だと考えています。
外崎:
もちろんWebも便利ではありますが、やはりフェイストゥフェイスのやりとりをすることで、顧客の細かなニーズや課題を把握しやすいです。ですから、こちらから出張して海外顧客を訪問したり、逆に顧客に来日していただいたりといったコミュニケーション方法も大切にしています。最近では、研究開発や製造部のメンバーも海外訪問に同行することがあります。また、顧客とWeb定例ミーティングをする時も私たちだけでなく開発や製造のメンバーも加わり、全体で対応するようにしています。顧客がさまざまな業種にまたがり、求められるニーズも大きく異なるため非常に難しい反面、それぞれの課題を解決することで当社の強みがまた一つ増え、自信に変わるという好循環を実感しています。

乗り物や音声認識の領域でも需要が高まる見込み

外崎:
音響メッシュ市場は、今後も拡大する見込みです。今やスマートフォンやPCは1人1台が普通になり、小中学校でも黒板からPCやタブレットを使った授業にどんどん移行し、音響メッシュのニーズは増え続けています。また、人口増加や都市化に比例して、自動車、飛行機、新幹線などのモビリティの利用量も増えています。今後は、それらのモビリティの各座席で別々の音楽・映像を楽しめる時代になることが見込まれ、至るところで音響メッシュのニーズが高まるでしょう。当社の強みを活かしながらこうしたニーズに応え、世界中の方々のお役に立ちたいと思っています。
先山:
自動運転やIoT(Internet of Things)、生成AIの発展に伴い、音声認識の需要も今後さらに高まるでしょう。音声認識に使われるマイクでは、防塵の精度がより問われるだけに、そこでも音響メッシュが求められてきます。将来的には、家、車、歩行中など場面を問わず身につけることで見聞きが補助されるようなウェアラブルデバイスの開発も進めていきたいです。
外崎:
なお環境に優しい取り組みとして、撥水剤のフッ素フリー対応や、バイオマス材料、リサイクル材料の製品開発なども鋭意進めています。
先山:
あわせて本社と工場では、CO2フリー電力の導入を行うなど、さまざまな方面から地球環境に優しい会社を目指しています。こうして事業拡大と社会貢献の両方にアプローチしながら、子どもが将来大きくなった時に「お母さん、すごい!」と言われるようにがんばりたいです。

Profile

写真:外崎 明

株式会社NBCメッシュテック
営業本部 スクリーン・産資営業部 アジア・パシフィックチーム・サブリーダー(担当課長) 外崎 明とのさき あきら

2008年入社。営業本部東部支店産資チームに配属。2024年6月からスクリーン・産資営業部 アジア・パシフィックチームへ。

写真:高橋 祐介

株式会社NBCメッシュテック
営業本部 企画開発部 担当課長 先山 絵理まずやま えり

2010 年入社。研究開発本部に配属。2014 年12 月から営業本部 市場開発部 産資開発チームへ(同部署のチーム名が変更され、現在の企画開発部に)。