米山 陽介/藤森 良枝米山 陽介/藤森 良枝
米山 陽介米山 陽介
藤森 良枝藤森 良枝
プロジェクトの概要と現在の仕事内容

新型コロナウイルスの世界的な流行を受け、人々はいわゆる“新しい生活様式”を強いられることとなった。その中ではマスクなどの衛生用品のニーズが爆発的に高まっているが、NBCメッシュテックは抗ウイルス・抗菌技術『Cufitec®(キュフィテック)』を駆使し、マスクやふき取りシート、カウンタークロスなどを世に送り出している。実はCufitec®が形作られたのは12年前に遡る。日の目を見ず、長く苦戦していた時期もあったというが、関係者の情熱によって地道に価値を上げ続けてきた結果、今この状況下において各方面から注目を浴びるに至っている。Cufitec®を開発した当事者の藤森とセールスの主担当である米山に話を聞いた。

鳥インフルエンザの流行に備えて開発が始まる。

抗ウイルス・抗菌技術『Cufitec®』は、一価銅化合物ナノ粒子を活用したNBCメッシュテックの独自技術である。簡単に言えば、銅イオンと活性酸素によってウイルスと細菌を制御する機能を有しており、何もせずとも長期間にわたって効果を発揮し続ける特性がある。
『Cufitec®』が研究レベルで形になったのは2008年のこと。大学院の博士課程出身である藤森が、入社5か月目ほどで発見するに至った。
「当時、新型の鳥インフルエンザが将来的に流行するかもしれないとの予測がありました。弊社が開発品の抗ウイルス試験を依頼していた試験機関で試験を担当していた元・国立感染症研究所の研究員の方と話をしていくと、抗ウイルス材として銅に可能性があるのではということになり、来るべき流行に備えて弊社でも本格的に開発を進めることになったんです」と藤森は当時を振り返る。
だが、藤森の専門は繊維工学であり、バイオはほぼ未知の世界。微生物やウイルス、菌の違いも判らないような状態から研究をはじめた当初は苦しいことの連続だった。ところが、偶然が味方をした。ある日、藤森は外部機関に対して試験する素材を間違えて送ってしまったのだが、そこに強力な抗ウイルス材の候補となる素材が潜んでいたのだ。しっかりと成果を出したのを受け、入社した年の秋には社長直轄で極秘プロジェクトが結成され、藤森を入れてわずか数人で新技術を使ったモノ作りが開始される。
プロジェクト1

終息に向かった中での製品発表。

製品化するにあたり、最初からテーマとして挙がったのがマスクだった。一価銅化合物ナノ粒子をマスクに付着させれば、日本でも流行するといわれていた鳥インフルエンザの脅威を軽減することができると考えたのだ。元来、同社ではメッシュにナノ粒子を固定させて新機能を持たせる技術『Nafitec®』を有しており、これを応用すれば一価銅化合物ナノ粒子をマスクに固定するのは難しいことではなかった。
ようやくマスクとして形になりそうだという話が出始めた2009年春、米山がプロジェクトに参加することになる。別部署で2年ほどメッシュクロスのルートセールスに携わっていたが、異動後はこの新しい素材を市場に投入するべく、企画開発から営業活動、広告宣伝活動などに挑む。
「最初は丸の内で記者を招いて大々的に『Cufitec®』をPRしました。翌日にはテレビや新聞に報道され注目を浴びたのですが、実は予測されていた鳥インフルエンザの流行が海外で発生したものの、既に終息を迎えつつあった中での発表だったのが難しいところでした」
それなりに注目をされたものの、ニーズが減りつつあったタイミングでは、力強い追い風を受けることはできなかった。しかも、マスクを作ろうにも材料は他社に抑えられ、思ったような量を供給できないというジレンマもあったという。
以後、マスクやカウンタークロス、ふき取りシート、防護服などで製品化はされていく。そのたびに藤森は最終製品の作り方までを調べて形にしていった。だが、大きなヒットには結びつかず、正直、苦戦を強いられていた側面は否めなかったという。

プロジェクト1

最終製品だけでなく、材料の提供により用途が拡大。

状況が変化したのは2016年のことだった。地道に『Cufitec®』のセールス拡大に勤しんできた米山たちは、自社で最終製品を作るのみならず、加工材料としての可能性を模索するようになる。抗ウイルス加工の不織布を作り、マスクを製造する他社ブランドに供給するというのは代表的なところだろう。さらにフィルム、樹脂ペレット、液体、スプレーなど多様な形態に一価銅化合物ナノ粒子を加工することで、活用できるシーンがぐっと増えた。
多彩な材料に対応させたのは藤森の役目だった。簡単な仕事ではないとはいえ、材料に集中してから、研究開発が非常にやりやすくなったと感じている。
「最終製品を作っていた時は、例えば、部品メーカーなのに自動車を作っていたような感覚で、本当にわからないことが多かったんです。ニーズに合わせて材料を形作ることになったおかげで、余計なことを考えずに本業に集中できるようになりました」
面白いことに材料に特化したことで用途が拡大し、『Cufitec®』が入っているマスクやスプレーを店頭で見かけるケースが圧倒的に増えたそうだ。
プロジェクト1

外部機関のエビデンス取得にも奔走。

メーカーが相手となると課題もあった。『Cufitec®』の機能には絶対的な自信を持っていたものの、NBCメッシュテックの提供する自社データだけではどうしても客観性に乏しいからこそ、外部のプロフェッショナル達に評価を受けることで顧客に安心を提供していく必要があったのだ。そこで、米山はエビデンス獲得活動にも従事し、アカデミックな機関や関係者に『Cufitec®』のメカニズムについて証明してもらえるように促していった。
「病院で使用してもらって、そこでのデータを学会に発表し、さらに論文化してもらうというような取り組みも行ってきました。また、10年がかりの大仕事となりましたが、マスクに関してはアメリカ食品医薬品局であるFDAの認証も取得。『Cufitec®』の信頼性もぐっと高まりました」
材料にシフトしてからは概ね好調で、取引先とも良好な関係を築き上げていく。そんな中で2020年、新型コロナウイルスの流行が発生したのだった。
プロジェクト1

Cufitec® insideが常識となる世界を作りたい。

新型コロナウイルスの流行が本格化した2020年2月、『Cufitec®』マスクをはじめとする自社製品は瞬く間に在庫切れとなった。さらに『Cufitec®』の材料を利用したいとの声が各所からかかるようになり、今まではアプローチしても断られていたような大手メーカーからも問い合わせが寄せられるようになる。結果、製品によっては売り上げが1,000%アップという驚異的な数字を示しているという。
「相性もありますが、塗布やコーティング、スプレー、あるいは材料に練り込んでいくことが可能です。様々な最終製品に応用できるのが『Cufitec®』の強みだけに、多くの企業から引き合いが寄せられています。振り返ると、開発した約12年前は不織布に塗ることしかできませんでした。あのときは大ヒットしなかったですが、紆余曲折を経てきたからこそ、これだけの可能性が広がったのだと思っています」(藤森)
藤森も米山も、世の中に求められているモノを提供できているのは、『Cufitec®』に携わる人間にとってこれ以上ない喜びだと語る。だが、ここで満足して立ち止まっているわけにはいかない。新型コロナウイルスの影響は、一過性ではなく長く続いていくと考えられる。改めてアフターコロナの時代においても、持続的に発展できる事業として育て上げるために、米山と藤森は全力を尽くす考えだ。
「今は国内の販売で精一杯ですが、新型コロナウイルスが流行してからの半年で寄せられた1,000件以上の問い合わせの約3割は海外からのものとなっています。グローバルな取り組みに注力していくことで、世界中で“Cufitec® inside”が当たり前になるようにしていきたいですね」(米山)
感染症の脅威から少しでも多くの人を守るために。米山と藤森をはじめ『Cufitec®』の関係者たちは、真っすぐに突き進んでいく。
プロジェクト1